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回想と回想法について [回想と、回想法はどう違う?]

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 「回想法」という言葉に初めて出会ったとき最初に浮かぶ疑問は〝「回想」という言葉
はわかる 。しかし「回想法」の「法」は何故に付いているのか? ” ということではないで
しょうか。

「回想法」は1960年代に認知症に対する「薬を使わない療法」としてアメリカで始まり
ましたが、現在では、特別養護老人ホームやグループホーム等の介護施設で行う回想法、
医療現場で心理療法の一つとして行われるもの、ご自宅で暮らす高齢者の方を対象とした
地域での回想法等、いろいろな分野で取り入れられております。

「回想法」の全体を説明することはできませんので、ここでは、このブログを読んでいた
だく際に必要と思われる範囲で、「回想法とは何か」を“介護関係施設と地域での回想法”
について、参考文献をもとにまとめたものです。

 あくまで筆者と同じ疑問を持たれた初学の方を対象に記してあります。すでにご存知の
方はスキップしてください。
(なお、記載内容は《引用文献》に拠っております。「 」内はその引用部分です。引用
の区切りは・で示してあります)

1)「回想」と「回想法」の違い
・「回想」という言葉は、「過去のことを思いめぐらす」(広辞苑)という意味であり、
 「すべての年令層にみられるもの」で、高齢者に限ったことではありません。しかし
 「高齢者の回想の質や心理面に及ぼす影響は他の年令層とは明らかに違い、特筆され
 る」特別な意味を持っています(2)

 青春時代と老年期との違い                            ・「思春期や青年期の若者が「自分はいったい何者か」「どこへいこうとしているのか」
 と内省的になるのと同じように、老年期になると「自分の人生は結局のところ何だった
 ろう」、「これまで生きてきて何をしてきたんだろう」という問いが心を占めるように
 なります。(3)

・「心に不安を抱えて一人で過去を振り返るとき、ともすればくよくよとして」しまい、
 「わたしの人生は失敗だった」「若い頃の夢は無惨にも破れた」などと、否定的な気持
 ちで堂々めぐりしがち」(8)です。

「良い聞き手」との回想で自然治癒力が生まれる                            ・そうした「多くの人にとって」は、自分一人だけの回想ではなく、「良い聞き手」の
 存在があれば「本人の心が活性化し、眠っていたこころの力が発揮され、自然治癒力
 ともいうべき力が動き出し、自らの心がおさまって」いきます。(9)

・こうした心の変化は「人格の統合をはかる」(バトラー)、或いは「人生の統合が達成
 できる」(エリクソン)と学問的に記されておりますが、平易な言葉でいえば、高齢者
 が「新たな生き直し、明日をまた生きようとの希望を持」つことであり、回想法によっ
 てそれらを「達成できる可能性が開かれる」と考えられています。(10)

「回想法」には一定のやり方があります
「回想」は個人の心の中で行われるものですが、「回想法」は自分一人では行いません。

・回想法は、①良い聞き手 ②安心して語れる場所 ③計画された流れ、という3つの
 考え方に基づき、「目的」をもって、高齢者の過去の人生を回想することにより、いろ
 いろな面での治癒効果を期待して行います。(4)

「グループ回想法」と「個人回想法」
・また、「回想法」は、その目的の違いと、参加する人数から「グループ回想法」(数名
 から10名前後の小グループで行う)と、「個人回想法」(聞き手と回想者が1対1で
 行う)と、2つに分けられます。                               

ご家庭での「型にはまらない回想法」もお薦め                   ・施設等では、一定のルールに則った”フォーマルな”回想法として実施されます。
 こうした”フォーマルな”ものとは別に、家庭での生活の中で行う”プライベートで型に
 はまらない回想法”の効果と役割も指摘されています。
 (私たちのメンバーも、高齢の母親と接していて、家庭での回想法の有効性を強く感じ
 ております。回想法を学び始めてから、家庭内での会話の内容と質も一変しました)

2)回想法の効果
 「回想法が広く普及している」イギリスで回想法を学んだ矢部久美子氏は、「その時使
 われた実践的ガイドブック」から「なぜ回想法をすすめるのか」の項を選んで、回想法
 の効果を以下のように、分かりやすくコンパクトに紹介しています。(11)

人生の再評価                                  ①個人の人生を再評価するという過程に肯定的な価値がある。

孤立からの回避                                 ②回想はどの世代の人びとにとってもふつうの行為である。しかし、自宅を離れ、施設や
 病院で暮らしたり社会から孤立しがちな場合は、回想を促すような刺激や機会にあまり
 恵まれないかもしれない。

過去がいきいきとした話題に                           ③現在、あまり活動的でなくなっている人びとに、過去はとてもいきいきとした話題を
 提供する。

社交の技術を取り戻す                               ④グループで行う回想法は社交的な活動である。それをとおして、他者の話に耳を傾けた
 り、みんなの前で話しをしたりするような技術を取り戻せることもある。

昔のことは良く覚えている                            ⑤回想法は高齢になっても忘れることの少ない遠い昔の記憶を使う。最近のことはすぐ忘
 れてしまう高齢者でも昔のことは良く覚えている。

介護する側も元気に                               ⑥回想法による活動はたいてい楽しく、高齢者とその介護者を元気にさせることが多い。

喜怒哀楽を表現できる                              ⑦回想法は高齢者に喜怒哀楽を表現する機会を与える。おそらく高齢者はそういう機会を
 あまりもつことがない。

おしゃべり」も立派な介護                             ⑧個人でもグループにあっても、回想法は介護される人とする人が座ってお喋りするため
 の正当な理由を作る。

その方の本当の姿が見えてくる                          ⑨痴呆があったり、身体的にとても虚弱だったりする高齢者を世話している人は、回想法
 をとおして、その相手の<真実の姿>を見て、固有の人格をもった一人の大人として
 見直す機会をもつ。

体験談に興味をもたれることの満足感                       ⑩多くの高齢者は自分の人生の体験談が他の人から興味をもたれることに、また何らかの
 エキスパートとして見なされることに、たいへんな満足感を得るものである。

過去の歴史と生活がリアルに                           ⑪若い世代の多くは、歴史の本では知ることのできない過去のリアルな生活を知って魅了
 されるものである。そのような情報は興味深いばかりでなく、私たちが現在を理解する
 ために、また過去の歴史を保存するために重要である。

 この中でも、特に③⑥⑨⑪について「深く共感」とも記しています。(11)
 (筆者も同感です)

学術文献では                                  ・また、野村豊子氏は「回想法に参加した後の参加者における効果」として「情動機能の
 回復」、「意欲の向上」、「発語回数の増加」、「表情などの非言語的表現の豊かさの
 増加」、「集中力の増大」,「問題行動の軽減」,「支持的・共感的な対人関係の形成」
 「他者への関心の増大」、などをあげています。(5)

3)回想法の歴史
アメリカの精神科医バトラーが提唱                            ・「回想法」は,1963年にアメリカの精神科医バトラーが「回想法の提唱」を行ったこと
 に始まります。(12)

高齢者の回想を肯定的にとらえる                         ・従来は、高齢者が過去を回想し懐かしむことは「現実からの逃避」や「過去への回帰」
 と、「どちらかというと否定的にとらえられがち」でしたが、バトラーは「誰にでもみ
 られる普通の行為」と考え「回想」という行為を肯定的にとらえ、回想法の実践を始め
 ます。回想法の手法は「急速に臨床・実践の場が広がり」さまざまな応用が試みられま
 した。

認知症を有する高齢者の療法として導入                             ・1970年代に入ると、「認知症を有する高齢者の心理・社会的アプローチとして導入さ
 れ」るようになりました。(6)

地域や在宅でのケアでも                             ・初めは「施設や病院で活用されることが多かったのですが、1980年代になると、地域
 ケア、在宅ケアの動向と相まって、デイケア、デイサービス、訪問介護、ホームヘルプ
 などの分野でも展開」されるようになりました。(13)

教育機関では、回想法を取り入れた授業も                            ・また、「介護福祉士の養成教育の場や施設内のスタッフ教育に回想法を活用する学校や
 施設が増え」、「高齢者への対人援助技術を学ぶ教科として回想法を取り入れた授業」
 を行っている福祉専門学校もあり、高齢者と接する際の「親和性」の面で、「回想法を
 取り入れた授業」の効果が指摘されています。(14)

地域の高齢者の介護予防や閉じこもり防止にも                           ・「現在では、介護保険事業としての具体化も含めて」、「地域への展開」として、
 「多様な活用が提示されています。その中でも特に、世代間交流、閉じこもり防止、
 認知症予防における回想法の活用にはめざましいものがあり」、「博物館などの地域
 資源を豊かに活用した試み」も見られるようになってきました。(15)

・たとえば、「地域に暮らす高齢者」の「介護予防を目的」とし、「豊かな人生を歩みつ
 づけていただくことを支援する手段に一つ」して「地域回想法」を実施している自治体
 (地区)もあります。(7)


4)回想法の種類
<グループ回想法>
「グループ回想法」と「個人回想法」
・施設や地域で行われる回想法は、数名から10名前後の集団で行う「グループ回想法」
 と、1対1で行う「個人回想法」に分けられます。                                                    
    集合写真+名札(720)大根.jpg                                                          (「大根」をテーマにした「グループ回想法」の一コマです)  

 グループ回想法は数名~10名前後で                       ・グループ回想法は、通常、語り手(施設等の入居者やデイサービス等の利用者)として
 の参加者が数名~10名前後、聴き手は、リーダー(司会者)が1名、コ・リーダー
 (補助者)が数名で行われます。

コ・リーダー(補助者)の人数                          ・参加者の身体状況によって、必要なコ・リーダーの人数は変わってきます。
 (たとえば、難聴気味の方には、コ・リーダーが1対1で側にいて、他の人たちの話を
 伝える必要がある、等々)

できれば同じ会場(場所)で                           ・会場は、できれば、毎回同じ場所が確保できること、静かで騒音や外部の声が聞こえな                                                                          
 いこと、通行者によって集中が途切れないこと等、が大事です。                                                                     

日常とは別の雰囲気に                              ・会議室のような個室が用意できれば理想ですが、たとえば「フロアの中で使用されてい
 ない場の環境を多少整え、リビング風にする」ことによっても、「施設内での日常生活
 とは少し異質な雰囲気ができ、メンバーにはよい緊張が得られ」、「その緊張の中で
 メンバー間の相互作用が働き、助け合いや協調性が生まれ」ます。(16)

グループで会話することの意義                            ・グループ回想法は、集団で会話を行うため、「他者の回想を聴くことで刺激され、新た
 な自分の回想が展開される」こともあり、「そして、それがまた他者へつながるという
 回想の連鎖」がみられます。
 また、お互いがお互いを刺激しあう相互作用の働きによって、集団ならではの力(グル
 ープダイナミクス)も生じ、「思いがけない出来事や予測できないハプニンングが起こ
 る可能性が高くなることもグループワークの醍醐味」といわれます。
 同時に、お互いがお互いの話を共有し、励まし合い、補い合う、「相互関係が深まる」
 ことも大きなメリットの一つです。(17)

同窓の意識も                                  ・回想法に参加したグループが、その終了後も「同窓グループ」で、「自主活動」を続け
 ることもあります。(18)

<個人回想法>
個人回想法は1対1                               ・個人回想法は、1対1で行いますので、「個人的なエピソードに焦点を」あてやすく、
 「話し手のペースに添って、丁寧に」行うことができます。(19)

医療施設から一般家庭まで、多様な場所といろいろな目的で                      ・また、個人回想法は、医療施設や介護施設で行う心理療法の一つとして、「個別ケアが
 適している/を要するとき」に加えて「個人的問題を抱えているとき」や「抑うつ症状
 など、精神疾患を伴っているとき」(20)行われるものから、家庭の「日常生活のなか
 に柔軟にさまざまな機会をとらえて取り入れていく」(21)ものまで、多様です。

・そのため、臨床心理の知識と臨床経験が必要とされる回想法から、次項で記すように、
 家族同士で思い出を語り合うような回想法(「法」を付けなくてもよいような)まで、
 多様ですので、必要とされるスキルも多様です。

<家族との回想法>
家族との回想法は特別の色合い                          ・「家族が日々の生活のなかに回想法の考えを取り入れていくこと」(22)は、ご自分の
 家で、ご家族だけで実施できますので、施設や地域で行う回想法とは別の色合いがあり
 ます。

(以下引用文献(22)に拠ります)
昔話をすることで気持ちが整理され、元気になる方も                ・「高齢者はたいてい昔話がとてもお好き」なので、家族としては「やれやれまた始まっ
 た」とうんざりなさったり、「またお説教かな」、と逃げ出しがちですが、「お年寄り
 のなかにはよい聞き手を得るだけで、心が自然に整理され、以前よりいきいきと明るく
 活動的になる」方がおります。

大事な経験や歴史を家族の中で受け継いでいくことの大切さ              ・「長年一緒に暮らしている家族の方」でも「お互いのことは意外に知らなかったり」、
 「正面からお互いの人生に向かい合うという機会は少ない」ものです。
 「昔だったら自然に世代から世代へと伝承されていた」ことが、今は埋もれてしまって
 いることもあります。そうした家族にとって「大事な経験や歴史」を、「子どもたちや
 お嫁さんや孫たち」が発掘し、「お年寄りから知恵を学び」ながら、受け継いでいくこ
 とは大事なことです。   

団らんが回想に(モザイク済).jpg

        (団らんが、いつのまにか、いろいろな思い出話に)

・お年寄りにとっては、「しっかり受け止めてもらえた満足感」に加えて、「自分が生き
 てきた意味、内容が次の世代に受けつがれ生かされていく」という「生きるうえの一つ
 の支え」になるはずです。

共感もあれば反論も                               ・一般的には、回想法を家族が行う場合は「むずかしい面とやりやすい面と両方」ありま
 す。「生活をともにして」、「過去を共有」しているので、「ああ、そうか、あの時は
 そういう思いだったのか」と共感するところもありますし、反対に「え、それはちがう
 んじゃない」と反論したくなる場合もあります。

・回想法をおこなうことで「過去の葛藤が顕在化して、それをきっかけに関係が改善する
 場合」もありますが、逆の場合も考えられます。

家族だからこその暗黙の了解も                           ・「家族というのは」、「ふれたくないところには自然にふれない」で暮らしており、
 「家族だからこそそういう気づかいもできる」わけで、「無理に立ち入らないで」、
 「相手の話したいことを出発点にして」いけばいいと思います。

身体状況によっては難しい場合も                         ・お年寄りの認知症や身体の状況によっては、「家族が回想法を行なうというのは簡単で
 はありませんが、それができた時には」、回想法の効果が「いっそう期待できるかもし
 れません。」

「聞くこと」も立派な介護                            ・当初、お年寄りのお話は「一見無意味に思える」かも知れませんが、お話に、実は何ら
 かの意味があるし、それを聞くということも「りっぱな介護の一つ」でもあります。

専門家(あるいは経験者)に相談できれば理想的                      ・「家族の方たちが回想法をなさる場合、専門家の援助を受けることのできる環境があっ
 て、いろいろ相談なさることができたら理想的」です。

・また、回想法の講座を地域の市町村(或いは福祉関係団体)で行っている場合は、受講
 されることをお薦めします。

 昔の手紙から思い出話に.jpg私たちグループのメンバーも、家庭での回想法の有効性を実感しております。  回想法を学んだ後には、母親(90才代)と接して、会話の内容が変わり、これまで見えていなかった部分も見えてきたようにも感じました。また、日常生活の折に触れての会話に中に、回想法で学んだことが、自ずと役立っているのではないか、とも感じています。
 

                   以前の手紙をもとに昔話。初めて聞くことができた物語もある。記憶の何処か奥の方から「未公開の思い出話」が現れることも少なくない

ご家庭や、友人同士の回想(或いは回想法)であれば、、特別に回想法の時間を設けなくとも、可能な時間に、可能な形で、ご家庭事情に合わせて実施できますので、最も実施
し易い回想法の形態かとも思います。

                 
                    以上      


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