春のノート [春:桃の節句]
*お知らせ:当会から、回想法の本が出版されました。詳しくは右欄の「出版のお知らせ」をご覧ください。
<テーマの目的>
テーマ:桃の節句
目 的:3月3日は雛祭り(ひなまつり)です。この時期にお雛様を手に取って見て
いただくことで、いろいろなお話が出てくることを期待しました。
戦争がありましたので、雛人形が燃えてしまった方や、人形なんてなかった
方もおられるかもしれませんが、それも思い出の一つとして語っていただき
たいと思いました。
雛祭りは「桃の節句」とも言われますので、桃の花のように可愛らしい記憶
も思い出していただけたらと思いました。
<実施日と参加者>
実施日:3月上旬
場 所:グループホーム(デイサービス併設)
実施者:リーダー1名、コ・リーダー2名
参加者:7名(100才の女性1名と90才台女性3名と80才台女性2名は要介護
2~4、80才台女性1名)
<参加者への配慮>
・お元気だが遠慮気味の方は、リーダーが意識的に指名し、コ・リーダーはその方が
発言しやすいようにサポートする。
・お元気な方でも、聞いている(聞こえている)ように見えても、そうでない時が多
くあるようなので、集中していただけるように話題に沿った問いかけを適宜行う。
・片側のみ、かろうじて聞くことが可能な方には、コ・リーダーが聞こえる側に座り、
筆談によりコミュニケーションをとりながら、口頭でも話題を伝えてサポートする。
<進行予定>
1)古い夫婦雛(めおとびな)と、最近の段飾りのお雛様を(お内裏様も)手に取っ
ていただき、雛祭り(ひなまつり)を楽しんだ頃を思い出していただく。
2)雛祭りの時の食べものについてお話いただく。
3)ご家族でどう楽しまれたか、ご両親やお子さんについてもお話いただく。
<用意した道具>
1)木目込み人形の夫婦雛(めおとびな)
→お内裏様とお雛様が対になったもの。リーダーが以前に手作りしたものです。
2)新しい雛飾りのお内裏様とお雛様
→施設にある七段飾りの中から、お内裏様とお雛様をお借りしました。
3) 桃の花を花瓶に活けておく。
<実際進行>
リーダー:こんにちは。この花は何の花でしょうか?
(テーブルに置いた花瓶の花を見ていただく)
:こちらには、夫婦雛(めおとびな)が二組あります。
:今日は何の話でしょうか。桃の花とお雛様があれば、もうお分かりですね。
:雛祭り、桃の花が咲く頃なので、桃の節句ともいいますね。
:今日は、皆さんとたくさんおしゃべりをしたいと思います。
:これはだいぶ古い。年期のはいっているお雛様です。
(皆さんに、手に持って、見ていただく)
(「いいねぇ」、「素敵だね」、「かわいい」、「ふっくらしている」、
「Fさんに似ている」など、皆さんニコニコしながら手に持って眺める)
:40年くらい経ってます。陽の目を見たのは、40年ぶり、じっくり見て
あげてください。
:皆さん、これ見ている時、ニコッと笑って、とてもいい笑顔です。
コ・リーダー②:Dさん、ニコニコしてるの見られちゃったよ。
→「家は、直したりなんかして、今何処にあるのかわからないよ」(Dさん)
→「顔がいいのは値段が高い。着物は差込みだから、高いよ」(Bさん)
リーダー:飾ったの覚えてますか?
→「飾ったの覚えてない。あったはずなんだけどね」(Dさん)
リーダー:私の子供の頃、お雛様はなかった。家が貧乏だったからか、戦後すぐだか
らか、わからないけど、家にはなかった。
→「家は十五段飾りだった」(Aさん)
(「十五段」に皆さんびっくり)
:七段飾りが一番大きいと思ってましたが、十五段とは凄いですね。
:お内裏様や官女の人数はどうだったのですか?
→「お内裏様とお雛様、五人囃(ばやし)、変な道具持っている3人。人数
は同じ」
→「毎年、ひとつづつ、新しいの買って、買い足していた」
→「最初は人間、次に車や茶道具や、毎年買い足していった」(Aさん)
ココ・リーダー②:Dさん、今のお話を皆さんにもお話してください。
(Dさんが隣のコ・リーダー②に話された内容が面白かったので、皆さんに
も聞こえるように、大きな声で話していただく)
→「お雛様は飾ったと思う。女の子、妹と二人だから」(Dさん)
「飾ったと思うんだけど、全然覚えていないの。だから飾らなかったんじゃ
ないかな?」
→「だって、私は、3つくらいの時から、親元(Dさんの母親のご実家)に
行って、一人で、泊まってたんだって、それも覚えてないのよ」
「1ヶ月くらい居たらしいよ。全然覚えてないよ」
「一人遊びやってた。自分では覚えてないけど、一人で遊んでいたらしい
よ」
→「母の姉妹がまだお嫁に行っていなかったので、私はよく遊んででもらっ
たらしい。ずいぶん良くしてもらったようだよ」
→「家よりも良かったんじゃないかな。遊んでもらって」
→「私が行けば、みんなが可愛がってくれてたみたい」
→「母の弟が一人いて、女兄弟の中の男一人だから、おとなしくて良い叔父
さんだったの」
→「行けば、みんなして可愛がってくれたの。よっぽど良かったんじゃない
かな」
リーダー:幸せだったんですね、お家も広くて、よく遊べたのでしょうね。
→「可愛かったのでしょう。Dさんが3歳の頃は」(コ・リーダー①)
→「私も女の子一人で、末っ子だった。可愛がってくれた」(Eさん)
(Eさんも、Dさんのように熱い口調で)
→「お雛様を、飾ってくれた。おばあちゃんが可愛がってくれた」(Eさん)
:いいですね。
→「今でも覚えている。よくお餅を作ってくれた。草餅を作ってくれた」
(Eさん)
→「よもぎ餅をお供えしないと、雛祭りにならないよ」(Aさん)
リーダー:よもぎ餅が無いと雛祭りにならないようです。よもぎ餅を作りましたか?
→「餅つきは、親たちがやった」(Fさん)
→「蓬(よもぎ)は、自分たちも採りに行った」(Bさん)
→「親が亡くなってから、臼をお寺さんに奉納した」
「職人さんが作った立派な臼、使わなくなって寄付した」(Bさん)
:皆さん、いろいろお話されましたので、今までのお話を整理すします。
(これまでの皆さんのお話を、リーダーはかいつまんでまとめる)
→「家の近所では、7歳になった子供の家では、お餅をついて、近所の子供
たちが食べに行った」(Aさん)
「お餅をついたよ、と近所に声をかけ、近所の子が食べに来た」(Aさん)
→「お雑煮、餡子餅(あんこもち)、草餅や、いろんなのを作った」
「子供のある家は、みんなやるよ」(Aさん)
「集めるのが大変なの。朝早く起きて、餅食べにきてちょうだいと、大き
な声で言って、回って歩く」
「呼びに行くのは、子供の仕事」(Aさん)
リーダー:そんな風習があったのですね。
:他の方も、そんな風習がありましたか?
→「あったよ」(Eさん)
→「家の方でもあった」(Gさん)
→「私の方にはそんなのない」(Dさん)
:田んぼや畑が多い田舎は、隣の家が遠いので呼びに行けないですね。
→「家の方もやったよ」(Cさん)。
→「私のところでもやってた」(Gさん)
→「七五三の時にやった。からみ餅なんか食べた」(Gさん)
→「横浜の方はやらない」(Fさん)。
→「私の家の方は、何処でもやる」(Eさん)
→「前の日から、明日、家でやるからと、言って回る。30軒の町内だけ
だけど、上と下に分かれていて、上も下も、家は15軒くらいしかな
いから、15軒に回る」
「きちんとした格好で言って回る」(Aさん)
→「子供だけしか呼んでないのに、大人で来ちゃう人も」
「いっぱい食べる。親戚の大人も来る」(Aさん)
→「最近は、やらなくなった」(Aさん)
→「3月3日も、5月5日も、お節句があるとやった」(Eさん)
→「それは大変だね。大変だと思う」(Dさん)
「みんなやってるんだ。凄いね」(Dさん)
→「朝早くから、どんどんやってる。私の家の方は、大人は来ないよ」(E
さん)
→「ランドセル背負って、学校へ行く前に、食べてから、学校に行った」
「日曜にやると、休みだから、ゆっくりと食べた」(Eさん)
リーダー:Dさんはお餅を作る方で大変、私は食べる方の立場から、いい風習だなと
思いました。
:Dさんは、作る方で考えておられるのは偉いですね。
私は食べる方でばかり考えていた。
→「お餅つくのは大変」(Dさん)
「私は、ことりが下手と言われていた」
「下手と言われて、お餅をつくのは大変」
「ことりが下手だと言われて、それは大変。やってみればわかるよ」(D
さん)
リーダー:Dさんは、旦那さんとお餅をついいて、ことりが下手だと言われて、傷つ
いてます。
:「ことり」は、杵(きね)でつく度に、お餅をひっくり返したりすること
ですね。
→「だから、精米機でつくようになって、良かったと思った」
「楽になって良かったよ。今度は丸めるだけでよくなった」(Dさん)
→「文句を言う人ではないんだけど、ことりだけは下手だと言われた」(D
さん)
:Dさんは、もし子供時代に、近所でお餅ついてたら、食べに行ったでしょ
うね。
→「行かないよ。学校が間に合わない。学校まで遠いから、遅刻しちゃう」
(Dさん)
:Dさんは、行かないと言ってます。
→「そんなの食べてたら、学校に間に合わない」(Dさん)
→「私のお家の方は、みんな来るよ」(Aさん)
リーダー:私の時代にはなかったですね。
:年代や地域で変わりますね。
→「良い時代だった。今はやらない」(Aさん)
「みんな、いっぱい食べに来た」
「大人も一緒に来て、食べちゃう人もいた」(少し非難する口調に)
「町内では、子供が7歳になると、何処の家でも、そうしていた」
「今は、草餅は買ってくる。その方が楽」(Aさん)
:うらやましい時代でしたね。
リーダー:蓬(よもぎ)は摘みに行きましたか?
→「摘みに行ったよ」(皆さん)
→「家の近くの裏の土手に。いっぱい。勝手に摘んだ」(Dさん)
→「田んぼ道に、いっぱい生えてた」(Bさん)
→「大きなよもぎは、犬が小便をかける。小さなのは大丈夫」(Aさん)
:よもぎを採ってくるのは皆さんたち。お餅はお父さんがついた。良い思い出
ですね。
リーダー:では話題を変えまして、甘酒とか白酒とか、飲みましたか?
→「甘酒は飲んだけど、白酒はない」(Dさん)
→「菜の花が咲くと、お寺さんが甘酒をただでふるまってくれる」(Bさん)
→「白酒はアルコールが入っている。お酒は駄目だ」(Gさん)
(「甘酒は飲んだ。白酒は飲のまない」、「甘酒は甘い。白酒はお酒」などの
発言あり。皆さんは、甘酒は飲んだが白酒は飲まれなかったとのこと)
→「甘酒は作ったよ」(Dさん)
「うるち米(うるちまい)を炊いて、麹(こうじ)を入れて作る」
「度をとるのが大変なんだよ」
「私はそれが下手で、甘酒は上手じゃなかった」
「発酵させる温度が上手じゃない」(Dさん)
→「砂糖は入れない方が美味しい」(Aさん)
「炬燵(こたつ)に入れておけばいい」
「ジャーのようなものに入れて、毛布にくるんで、炬燵に入れておいた」
(Aさん)
→「炬燵に入れるのは良いかも。知っていれば自分もやったのに」(Dさん)
「麹(こうじ)をもっと入れればよかったと思う。麹の量が少なかったみ
たい」(Dさん)
→「甘酒はお母さんが作ってくれた」(Fさん)
→「親が上手に作った。どぶろくも作った」(Bさん)
:どぶろくは、本当は作っちゃ駄目なんでしょう。
→「売らなければいい。自分の家で飲んだ」(Bさん)
リーダー:皆さん、苦労して頑張っていたのですね。拍手ですね
:生活の知恵ですね。
:頭使って、体使って、頑張ってこられたんですね。
:これからも、頭と知恵を使って、若い人たちにいろいろと教えてください。
(うなずかれる方が多い中で、「その知恵も外れることもあるの」(Eさん)
と、「もう覚えてないよ。教えられないよ」(Dさん)の発言もあり)
リーダー:桃の節句に相応しいお菓子がありました。よく見てください。
:まず、見るだけ。まだ食べません。
(お皿に和菓子を載せて配る。「わー、きれい」、「可愛い」、「眺めるだけだ
って」、「これはお雛様、そっちはお内裏様」、などわいわいがやがや)
(リーダーの「雛祭り、おめでとうございます」の合図で食べ始める)
(「これは可愛いから、食べられないね」と言いながら、皆さんしっかりと
完食されました)
リーダー:お雛様は、子供だけではなく、大人も楽しいですね。
:昨日は施設でも雛祭りで、今日も可愛くて美味しいお菓子を皆さんで食べ
て、今年は良い雛祭りでした。
(リーダーが「今日はこんな楽しいお話をしていただきました」という前置
きで、リーダーが印象に残ったお話をまとめる)
:今日は私の知らないことを、いっぱいお聞きすることができました。
:めったに聞けないことがたくさんありました。ありがとうございます。
:勉強になりました。楽しかったです。
リーダー:食べ終わったら、もうひと仕事です。
:歌の時間です。
(歌詞カードを皆さんに配る)
:では、歌姫のAさんよろしくお願いいたします。
(Aさんは「はい、うれしい雛祭りです」と言って、「あかりをつけましょ
ぼんぼりに、お花をあげましょ桃の花・・・」と指揮するように歌い始め
る)
(「うれしい雛祭り」と、「早春賦(そうしゅんふ)」、「花」を歌う)
(「早春賦」は「春は名のみの風の寒さや・・・」という歌詞)
(「花」は、「春のうららの、隅田川・・・」という歌詞)
(歌い終わって、終了しました)
<座直り>
・お茶を飲みながらの雑談の中でも、桃の節句に関する話題がありました。
→勝浦市(千葉県)は、雛祭りで有名です。駅に雛飾りがありますので、一度は
見に行ったことあるようでした。
→「段飾りは、しまうのが大変。十五段飾りも、もうなくなった。何処か行っちゃ
った。置いとくところなくなった」とAさん。
→皆さんも「収納が大変」という結論でした。
・「お内裏様は顎紐(あごひも)があったほうが良い」と、丁寧に顎紐(あごひも)
を締め直していただきました。
・歌い足りず、春の歌を歌おうということになり、「春のうららの隅田川・・・」と
また「花」を歌い、歌詞カード無しで「春の小川」と「蝶々」を歌いました。
<回想法を振り返って>
1)雛人形を手に持って眺めている時の皆さんの表情には驚きました。まるで童女の
ような笑顔でした。
2)心の奥深くに眠っていた思い出が、ぽろっとほとばしり出た感じで、お話してい
ただくことが何度もありました。
→思い出があふれてきて、紅潮しながら話をされる方もおりました。
→お餅つきでのご苦労話や、7歳の子供のいる家で行われる振る舞い餅のお話で
は、ご家族への愛情や、昔の良き風習への愛着も感じました。
3)今回の回想法の道具は雛人形でしたが、その道具の持つ力に驚きました。
(リーダー:室井)